糞便理化学分析
特 長
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ヒト糞便の他に、マウス・ラット糞便、消化管内容物などの分析が可能
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腸内代謝物分析、さらにIgA産生や胆汁酸分泌などの宿主側の応答の評価に
概要
糞便理化学分析の各対象成分は、「必要検体量・分析対象成分/評価項目」に記載の評価項目を測定、分析します。
糞便中有機酸 (短鎖脂肪酸)分析
腸内において有機酸 (短鎖脂肪酸)は、腸管内を酸性に保ち、腸の蠕動運動や腸管からの水の分泌を促進するほか、感染防御、腐敗産物の生産抑制、便性・便通の改善効果を持つことが知られています。有機酸は、腸内細菌による食物繊維や炭水化物の代謝物であり、タンパク質やペプチドの消化でも増加することが知られ、腸内細菌叢と共に評価することが望まれます。酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸は、宿主の短鎖脂肪酸の受容体 (GPR41、GPR43など) を介して肥満や糖尿病に関連することが近年報告されています。例えば、GPR41は主にプロピオン酸と酪酸により活性化され、交感神経系を介して、エネルギー恒常性の維持に関わることが報告されています。また、GPR43は酢酸とプロピオン酸によって活性化され、エネルギーの白色脂肪組織への取り込みを抑制し、脂肪の蓄積を抑えていると報告されています。
糞便中胆汁酸分析
腸内細菌叢の変化は、宿主のコレステロール・胆汁酸代謝に影響を及ぼします。ヒトの一次胆汁酸であるコール酸とケノデオキシコール酸は、小腸内で腸内細菌により代謝を受け、それぞれデオキシコール酸とリトコール酸に代謝されます。ラットやマウスは一次胆汁酸としてムリコール酸を生成します。二次胆汁酸は、大腸がん発症のプロモーターと言われています。
糞便中腐敗産物分析
腐敗産物は、糞便の悪臭の原因と言われ、腸内環境の悪化を示す指標として知られています。腸内細菌によりチロシンからフェノール類が作られ、トリプトファンからインドールやスカトールが作られます。産出されたフェノール類の多くは血液を介して表皮形成過程に悪影響を及ぼすことから、肌荒れを起こす要因の一つに挙げられています。
糞便中アンモニア分析
食餌品に含まれるタンパク質や消化管への分泌液に含まれる尿素は、腸内細菌によって分解されてアンモニアに代謝されます。腸内環境を改善することで糞便中のアンモニア量を低減できたとの報告も多くあります。
糞便pH測定
糞便のpHが、低いほど色は黄色っぽく、pH7.0 (中性) を越えると茶色っぽく、pH8.0 (弱アルカリ性) になると黒っぽくなります。乳幼児の糞便はpHが4.5~5.5 (弱酸性) で黄色、健康な大人の糞便はpHが5.5~6.0で黄土色です。
大腸菌 ( Escherichia coli )、ウェルシュ菌 ( Clostridium perfringens ) などの悪玉菌は、アルカリ性の腸内環境を好んで発育し、pH6.0以下 (弱酸性) になると発育しにくくなります。
糞便水分測定
糞便は、腸内貯留時間が長いと水分が腸管に吸収されて硬くなり、反対に腸内貯留時間が短いと水分が腸管に吸収されず、柔らかくなります。水分が70%未満では排便時に苦痛を感じるようになり、80%以上になると軟便となり、90%を超えると水様便となります。水分は、pHと負の相関があります。
糞便中IgA分析 (ヒト)
腸管には全末梢リンパ球の約70%に相当する免疫系細胞が存在しており、腸内細菌が宿主の消化管に定着することによって、免疫系が刺激・活性化されていると考えられています。小腸粘膜面での微生物に対する特徴的な応答に免疫グロブリンの一種であるIgA産生があり、これはプロバイオティクス乳酸菌の摂取により亢進し、感染防御へとつながることが期待されています。なお、糞便中IgA分析は、単量体と二量体を測定しています。
受入可能な検体
検体区分 | 由来 | 検体の種類 |
A区分 | ヒト | 糞便 |
マウス、ラットなどの実験動物類 | 糞便、 腸管内容物 | |
ブタ、 ウシ、 ウマなどの家畜類 | ||
ニワトリなどの家禽類 | ||
イヌ、ネコなどのペット | 糞便 | |
その他 | お問い合わせ下さい |
※ 血液、臓器、細胞組織およびそれらが付着した検体の受け入れはできません。
必要検体量・対象成分/評価項目
試験項目 | 対象成分/ 評価項目 | 定量下限値 | 分析機器、または | 分析必要量※ |
糞便中有機酸 (短鎖脂肪酸)分析 | ・酢酸 | 0.05 mg/g | LC | ヒトの場合200 mg マウス、ラットの場合100 mg |
・iso- 酪酸 | 0.1 mg/g | |||
糞便中胆汁酸分析 | 非抱合型胆汁酸: 14 成分 | 0.02 ~ 0.25 | LC-QTOF MS | |
・コール酸 | ||||
糞便中腐敗産物分析 | ・フェノール類(p- クレゾール、フェノール、 | 0.3 μg/g | GC-MS | |
糞便中アンモニア分析 | アンモニウムイオン ( アンモニア濃度に換算) | 0.5 μg/g | イオンクロマトグラフィー | |
糞便pH測定 | pH | - | pH 計 ( ガラス電極法) | |
糞便水分測定 | 水分 | - | 乾燥法 | 0.5 ~ 1 g |
糞便中IgA 分析 | IgA ( 単量体、二量体 ) | 1 μg/g | ELISA 法 | ヒトのみ 200 mg |
※ 食物残渣が多い場合には分析必要量に満たないことや、計量時のロスもありますので、分析必要量以上の送付をお願いします。
※ 分析必要量は1項目当たりの量になります。複数項目を同時にご依頼の場合には、お問い合わせ下さい。
送付方法
検体の種類 | 留意点および送付方法 | 試験項目 | |
糞便、 腸管内容物 | 糞便採取容器 ( 保存液なし ) あるいは気密性の高い容器 | 採取後速やかに冷凍保存、 冷凍輸送 | 全項目 |
メタボロキーパー®※ | 採取後速やかに冷蔵保存 冷蔵輸送推奨、 常温輸送可 | 糞便中有機酸 (短鎖脂肪酸)分析 |
※ 可能な限り温度変化の少ない環境(冷蔵推奨)で、立てた状態で保管下さい。
・ 保存液は捨てずに検体を採取し、採取後も採取容器は冷凍せず、保存液の中に検体が入った状態でご送付下さい。
・ 採取容器にビニール袋やチャック袋を使用することはご遠慮下さい。
納品内容
報告内容 | 形式 |
各試験項目に対応する対象成分の濃度または測定値 | Excel ファイル |
価格・納期
試験項目 | 検体数 | 単位 | 単価(税抜) | 納期 |
糞便中有機酸 (短鎖脂肪酸)分析 | 1 ~ 3 | 検体 | 27,000 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 17,000 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 12,000 円 | ||
30 ~ | 検体 | 8,000 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便中胆汁酸 ( 非抱合型 ) 分析 | 1 ~ 3 | 検体 | 90,000 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 56,000 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 42,000 円 | ||
30 ~ | 検体 | 28,000 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便中腐敗産物分析 | 1 ~ 3 | 検体 | 33,000 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 22,000 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 17,000 円 | ||
30 ~ | 検体 | 12,000 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便中アンモニア分析 | 1 ~ 3 | 検体 | 17,000 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 12,000 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 9,000 円 | ||
30 ~ | 検体 | 7,000 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便 pH 測定 | 1 ~ 3 | 検体 | 4,100 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 2,800 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 2,300 円 | ||
30 ~ | 検体 | 1,700 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便水分測定 | 1 ~ 3 | 検体 | 3,500 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 2,400 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 2,000 円 | ||
30 ~ | 検体 | 1,600 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便中 IgA 分析 (ヒト) | 1 ~ 3 | 検体 | 38,000 円 | 17 営業日~ |
4 ~ 6 | 検体 | 22,000 円 | ||
7 ~ 29 | 検体 | 15,000 円 | ||
30 ~ | 検体 | 10,000 円 | お問い合わせ下さい | |
糞便 混練作業※ ¹、² | 1 | 検体 | 1,000 円~ | お問い合わせ下さい |
関連ページ
※糞便理化学分析項目に必要な糞便量の目安と最適な容器
項目名 | 最低必要量 | 目安 | 最適な容器 |
・有機酸 (短鎖脂肪酸) | ・ヒト糞便:各200 mg | ・ヒト糞便:グリーンピース2~3粒 | ・2 mL スクリューキャップチューブ |
水分 | 1 g | うずらの卵1個 |
※糞便理化学分析の際、分析必要量よりも多めに採取・送付をお願いします。
※複数の項目をご依頼の場合は、依頼書に優先順位のご記入をお願いします。
ご依頼前の同意事項
※1 均一化のための糞便の混練作業です。多量の検体を作業する場合、別途、処分費が必要となることがあります。詳細は当社までお問い合わせ下さい。
※2 同一検体を複数の容器でお送りいただき、それらをまとめて秤量する場合、混練作業が必要な場合があります。
・ 糞便中有機酸 (短鎖脂肪酸)分析は、検体をスプーン型、保存液なしのタイプで採取し冷凍、あるいはメタボロキーパーで採取し冷蔵または室温 (冷蔵推奨) でお送り下さい。
・ 糞便中有機酸 (短鎖脂肪酸)分析以外の分析をご依頼の場合は、スプーン型、保存液なしのタイプで採取し、冷凍でお送り下さい。
・ 有機酸 (短鎖脂肪酸)分析、腐敗産物は、採便後直ちに冷凍保存することで、分析対象物質が1ヶ月間程度は安定であることを確認しています。
・ 輸送時に万が一、解凍した場合、これに伴う梱包材の軟化や破断による汚染が考えられます。発泡スチロール製の容器に梱包いただき、漏洩にご注意下さい。
・ 哺乳類・鳥類などの野生動物 (野良も含む) 由来の検体は、送付前にお客様の元で加熱処理(85℃ 15分以上)をお願いします。
・ ご依頼事項の同意事項 (共通) を必ずご確認下さい。
・ 試験時に発生した抽出物などの中間産物は、提供しておりません。